公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2024年 論文賞 金賞・銀賞

2024年4月19日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞表彰審査委員会(論文賞表彰審査委員長および表彰審査委員 計22名)は2024224日に論文賞表彰審査会を開催し、2022年および2023年の品質工学会誌に掲載された研究論文20編に対して厳正に審議を行った。その結果、下記の論文に対し2024年公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞(金賞1件、銀賞3件)の授賞を決定した。

受賞論文

金賞 題 目 技術開発におけるデザイン・フォー・シックスシグマ適用の検討(Vol.31 No.2)
受賞者 高倉裕太朗*1 箱本健次郎*2 城 一樹*2 衛藤洋仁*1
(*1いすゞ自動車(株) 正会員 *2いすゞ自動車(株))

銀賞 題 目 パラメータ成立範囲によるロバスト設計法と耐震設計への適用(Vol.31 No.1)
受賞者 角 有司*1 中川貴文*2
(*1 (国研)宇宙航空研究開発機構 正会員 *2京都大学生存圏研究所)

銀賞 題 目 田口の考え方にみる技術構造の研究(Vol.31 No.4)
受賞者 吉澤正孝(クオリティ・ディープ・スマーツ(責) 正会員)

銀賞 題 目 生体情報に基づく製品の使い心地評価(Vol.31 No.1)
受賞者 植 英規*1 渡邉紫音*2
(*1福島工業高等専門学校 正会員 *2福島工業高等専門学校)

選定理由

○金賞:技術開発におけるデザイン・フォー・シックスシグマ適用の検討(Vol.31 No.2)

 近年の自動車エンジン開発において、排ガス対策デバイス等の追加、構造部品のモジュール化にともない外回り部品数も大幅に増加し、エンジン開発の難易度が高まっている。結果として、開発設計の手戻り、部品の再評価などが発生した場合、開発日程に影響を及ぼすこともある。開発設計の手戻りが発生する要因について分析した結果,部品の共振により発生した高応力のばらつき挙動が予期せぬ様々な不具合の原因になることが判明した。
 本研究では、こうした現状を認識し、先行性,汎用性,再現性のある技術開発と評価を実行するプロセスとしてDFSS(デザイン・フォー・シックスシグマ)に着目し、その有効性の検証に取り組んだ。エンジン外回り部品の振動強度問題の解消を開発テーマに取り上げて検討した結果、DFSSが提唱するIDDOVステップを着実に踏むことで、ロバスト性が高く,かつ不具合発生リスクが少ない減衰機能付与技術アイデアを効率よく獲得でき、さらに手戻りのない製品開発を実現できることを示した。
 DFSSをベースに開発プロセスの変革に挑戦し、その有効性を具体的に示した本取り組みを高く評価する。引き続き他の開発テーマにも横展開され、その汎用性が具体事例とともに示されることを期待する。

○銀賞:パラメータ成立範囲によるロバスト設計法と耐震設計への適用(Vol.31 No.1

 木造建築の耐震補強設計を対象に、多目的特性を同時に成立させる設計パラメータの範囲の探索に取り組んだ研究である。具体的には、セットベースデザインの考えをベースに、7水準からなる因子を割付可能な多水準直交表を利用したことに加え、誤差因子も与える中で非線形シミュレーションモデルによる耐震補強設計の評価を行った。膨大な量のシミュレーション計算を実行するために大型コンピュータを活用し、再現性の高い結果を得ることに成功している。
 本研究は多目的特性の同時最適化のアプローチ方法を提案するものであるが、まだ初期段階の研究であり、ここで示された設計過程においては試行錯誤のステップが避けられないなど、実用上の検討課題を多く残している。しかしながら、近年のコンピュータの大幅な性能向上を背景にパラメータ設計のあり方について問題提起する研究であり、今後、議論を深めるきっかけを作りだしている点を高く評価した。引き続き残課題の解消に向けて研究に取り組まれることを期待する。

○銀賞:田口の考え方にみる技術構造の研究(Vol.31 No.4

 品質工学の提唱者である田口玄一の考えと考え方を基軸に、品質工学の学問としての明示的構造の発見を試みた研究である。本研究では、広く学問を「学ぶ」「実践する」「研究する」「知識を体系化する」の4要素からなるテトラ構造で捉えることができると仮説を置き、品質工学においても学問としてのテトラ構造を発見できる可能性を示している。
 本研究は田口のかかわった膨大な研究の調査、分析を背景に進められた大がかりなものである。まだ研究の途上にあるものの、田口の考え方の構造化を通して学問としての品質工学の構造明示化に至ることで、今後の品質工学の進化発展のために研究開発すべき領域も明示できることになり、品質工学のさらなる進化を加速させる可能性も見えてくるであろう。引き続き、研究を進めて品質工学の進化発展に貢献されることを期待したい。

○銀賞:生体情報に基づく製品の使い心地評価(Vol.31 No.1

 コンピュータ操作用マウス製品を題材に、製品の使い心地の定量評価指標づくりに挑戦した研究である。使い心地の良い製品の使用時はユーザのストレスが低い状態にあると捉えて、製品使用時にユーザが感じているストレス程度をMT法によりマハラノビス距離(MD)で定量化することを試みている。特徴項目には製品使用時のユーザの心拍波形と脳波から抽出した55項目を採用し、 5名の実験協力者で検証を行った結果,4名については本人の申し出た「操作しにくい条件」においてMDが大きくなる傾向を確認できた。
 品質工学による研究の中心は、新たな計測評価指標の構築研究にある。合理的な評価指標は社会の生産性向上に貢献する。本研究を通して製品の使い心地をMDで定量評価できることが検証されれば,製品の使い心地改善のためのパラメータ設計を、限られた被験者の主観に頼らずに合理的に実施できる可能性が見えてくる。また、製品の使い心地以外の、様々な心理状態評価への応用も可能であろう。現段階ではバイタル波形計測精度の確保、被験者による検証件数の不足などまだ多くの検討課題を残しているが、品質工学の応用領域を大きく広げる可能性のある本研究には、多くの表彰審査委員から高い期待が寄せられた。

お問合せ

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  品質工学会事務局 金野(こんの) 

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