公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2014年 論文賞 金賞・銀賞

2014年4月19日
品質工学会 審査部会

授賞の背景

 品質工学の優秀論文に授与される〔公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞論文賞〕の審査を平成26年2月22日開催の審査委員会にて実施した。その結果,前年2013年に学会誌掲載された論文23編より,2014年度品質工学賞論文賞(金賞1編と銀賞3編) が選定された。

受賞論文

金賞 題 目 ホルムアルデヒド放散量の少ない反応性塗材の開発(Vol.21 No.4)
受賞者 森 泰彦*1,森 義和*1,中島建夫*2
(*1 東亞合成(株) 正会員,*2 東京電機大学 正会員)

銀賞 次の2編の論文を併せての受賞とする。
題 目 トウモロコシ栽培条件の最適化研究(Vol.21 No.4)
受賞者 金築利旺*1,原田真介*2,白川秀喜*2,矢野 宏*3
(*1 (株)あじかん 正会員,*2 (株)あじかん,*3 応用計測研究所(株) 正会員)
題 目 サツマイモ栽培への品質工学の適用(Vol.21 No.1)
受賞者 金築利旺*1,原田真介*2,桑原 修*4,岩垂邦秀*5,奥 展威*5,矢野 宏*3
(*1 (株)あじかん 正会員,*2 (株)あじかん,*3 応用計測研究所(株) 正会員, *4 広島市工業技術センタ一 正会員,*5 (一財)日本規格協会 正会員)

銀賞 題 目 MTシステムを用いたキーストロークによる本人認証と不正アクセス行為の識別 -2種類の誤りがある場合のしきい値の検討-(Vol.21 No.3)
受賞者 大坂一司*1,矢野耕也*2
(*1 日本大学 学生会員,*2 日本大学 正会員)

銀賞 題 目 誤圧を利用した工場の環境影響度評価(Vol.21 No.4)
受賞者 生駒亮久
(KYB(株) 正会員)

審査の視点

 賞は現時点だけではなく,将来予測しての評価である。発展の可能性が高い研究を評価したい。現時点では荒削りであるとしても,それは将来改善されていくと考える。また,これまでの挑戦の積み重ねが品質工学を発展させたことを考えて,挑戦する研究を評価したい。
 学会の21年を振り返ると個別技術課題に対して大きな成果を挙げている。しかし,個別課題への対応は,狭い点の目先の解決に終わることがある。個別ではなく,システム全体をとらえる取り組みは,マクロ的な視点に立つ研究であり,挑戦である。また,品質工学は社会損失の低減を理念として掲げている。社会からの要請にこたえる取り組みも重視したい。農業分野の受賞は社会的な期待の表れであり,実用への後押しとなることを願っている。
 品質工学の未開拓な分野・対象はまだ多い。会員各位の新しいことへの挑戦を期待する。また,既存分野であっても,基本機能や汎用化など,さらに追求すべき課題は多く残されており,それの追求も期待する。

選定理由

【金賞】ホルムアルデヒド放散量の少ない反応性塗材の開発(Vol.21 No.4)

 建物の床面に用いる反応性塗材からのホルムアルデヒド放散量の低減を検討した。塗材の配合処方を検討するにあたり,ホルムアルデヒド放散量を精度よく測定することが重要となるが,非常に微量であるため,その測定精度の低さが開発の大きな課題となっていた。本報は製品の実際の使用場面に近い状態で,かつ簡易的な方法で微量化学物質の計測精度の向上を試みた事例であり,化学分析への応用例として貴重な事例である。現物を対象とした計測系での真値不明の問題に対する信号の設定方法にオリジナリティがある。新しい測定法の開発をして,新しい物を開発している模範的な事例である。そこを評価した。

【銀賞】
①トウモロコシ栽培条件の最適化研究(Vol.21 No.4)
②サツマイモ栽培への品質工学の適用(Vol.21 No.1)

 これまで取り組んできた農業への品質工学の適用から,パラメータ設計とMTシステムを同時に適用する方法を提案している。農業では土壌や気象条件に大きく左右されるため,どんなに簡単な作物であっても一筋縄ではいかない。これまでの研究から,パラメータ設計のみでSN比の利得の再現性を得ることは,毎年のように異常気象が叫ばれる現代では困難である。パラメータ設計にMTシステムを加えることで,さままなデータから成長を予測し,成長過程の制御をしていく方法が可能となることを示している。本研究は,それ明らかにしたことを評価した。
 本研究は精密累積法を応用した評価方法の検討という果敢な挑戦がされており,かならずしも結果が得られたわけではないが,研究成果として評価したい。また,直交表による実験を行ってから翌年確認実験をしたのでは2年の歳月がかかるため,1年で実験が終わるようあらかじめ確認実験を想定した追加実験も行っており,今後の参考となる方法である。
 数年にわたる大がかりな実験である農業研究に対する意気込みも評価したい。

【銀賞】MTシステムを用いたキーストロークによる本人認証と不正アクセス行為の識別 -2種類の誤りがある場合のしきい値の検討(Vol.21 No.3)

 コンピュータがさまざまな情報を持つようになるにつれて,重要情報を狙った不正アクセスが急増し大きな社会問題となっている。現在はIDとパスワードによる知識認証システムが主流であるが,パスワードは文字情報のため外部へ漏れやすく,また文字の総当たりによる不正アクセスのリスクという問題がある。本研究では,被験者のタイピングスキルを調査したのち,キーストロークによる本人認証を行い,そのパターンの数値化と識別性についての検討をMTシステムにより行った。本人を他人として拒否する誤りpと,なりすました他人を本人として受け入れる誤りqの2種類の誤りがある認証システムの研究である。システムは運用時の識別判断のしきい値の決め方によってpとqが変化し,しきい値の決め方も研究対象である。
 MTシステムの適用可能性を示すだけでなく,経済性を考慮したしきい値の決定まで進めたことを大いに評価した。
 また,キーストロークの人による違いを示す誤圧法の計算の(感度/ばらつき)は動特性のSN比に相当することを明らかにしたことも大きな成果と考える。

【銀賞】誤圧を利用した工場の環境影響度評価(Vol.21 No.4)

 本研究は,数種ある環境影響データ(CO2排出量,買電電力量,燃料使用量,…,産業活動指数/経済産業省)から作った総合的な影響度を測る物差しを用いて,従来の指標(エネルギー消費原単位)と比較して,より合理的な工場運営を可能にすることが目的である。従来の指標では生産高が多くなりエネルギー消費が増えても,単位生産高当たりのエネルギー消費量が少なくなれば良いとしてきた。しかし,生産高が変化してもエネルギー消費量は比例的に変化する訳ではなく,生産高と切り離せない指標である。また,環境廃棄物は別の指標となっている。そこで基準とする単位空間を,生産高に対するエネルギー消費量および廃棄物排出量がともに小さい9ヶ月分のデータとして,生産高がいずれの場合でもエネルギーおよび廃棄物が少ない方が良いとした。物差し作りにはMTシステムの誤圧法を用いている。物差しの妥当性の検証として,各項目の寄与を直交表による項目診断で検討している。品質工学を重要な社会問題である環境影響度の研究に使ったことの意義を大きく評価した。
 現実に社内工場で成果を確認している。更に研究の目的を追求して,より合理的な物差しになるように研究を進展することを期待する。

お問合せ

論文賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 中山,金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350