公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2016年 論文賞 金賞・銀賞

2016年4月22日
品質工学会 審査部会

授賞の背景

 品質工学の優秀論文に授与される〔公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞論文賞〕の審査を平成28年2月20日開催の審査委員会にて実施した。その結果,前年の2015年に学会誌掲載された論文15編のうち該当論文13編より,2016年度品質工学賞論文賞(金賞1編と銀賞3編)が選定された。

受賞論文

金賞 題 目 有害物質を出さないことから作らないことへ -毒性推定システムの研究-(Vol.23 No.2)
受賞者 戸枝孝由*1,木田修二*2,飯島裕隆*2,朝武 敦*2,山内正好*2,田村希志臣*1,高木俊雄*1
(*1 コニカミノルタ(株) 正会員,*2 コニカミノルタ(株))

銀賞 題 目 着磁条件による磁石表面の磁束密度分布制御(Vol.23 No.5)
受賞者 山村英記*1,岩田正慶*2
(*1 (株)束海理化 正会員,*2 (株)束海理化)

銀賞 題 目 JIS Z9090によるGPSロガーの評価(Vol.23 No.4)
受賞者 和田友宏
(富士ゼロックス(株) 正会員)

銀賞 題 目 新規多機能照明企画に対する想定顧客のパターン認識による適合性評価と分類(Vol.23 No.6)
受賞者 中垣保孝*1,清水佳恵*2,直井由紀*2,三ツ井佳祐*2,菖蒲鷹彦*2,松井直樹*2,田村希志臣*1
(*1 コニカミノルタ(株) 正会員,*2 コニ力ミノルタ(株))

審査の視点

 賞は現時の出来栄えだけでなく,先行性を考慮し将来を予測しての評価が必要である。論文の論理性に加えて発展の可能性が高い研究を評価したい。現時点では荒削りであるとしても,それは将来改善されていくと考える。また,これまでの挑戦の積み重ねが品質工学を発展させたことを考えて挑戦する研究を考慮した。
 学会の20年を振り返ると個別技術課題に対して大きな成果を挙げている。すでに指摘されたことであるが問題解決的視点で適用しがちであると指摘されている。さらに,個別課題への対応は,狭い視点の目先の解決に終わることがある。個別ではなく,システム全体をとらえる取り組みは,マクロ的な視点に立つ研究であり挑戦である。また,品質工学は社会損失の低減を理念として掲げている。社会からの要請に応える取り組みも重視したい。
 品質工学の未開拓な分野・対象はまだまだ多い。会員各位の新しいことへの挑戦を期待する。また,既存の分野であっても,基本機能や汎用化など,まだまだ追求すべき課題は多く残されており,それへの追求も期待する。

選定理由

【金賞】有害物質を出さないことから作らないことへ -毒性推定システムの研究- (Vol.23 No.2)

 本研究テーマは2013~14年に窪田らにより検討がされているが,有害性が不明な無数にある新規化学物質の毒性を,開発初期段階で効率的に推定することを試みている。毒性のない物質を単位空間データとし,物資の毒性を信号として誤圧で評価する方法を試みている。毒性を実験の積み重ねで検討することに比べはるかに効率が高いといえる。一見粗い方法に見えるかも知れないが,時間や手間を含めた効率的な設計方法という観点からは有効性が高いといえる。化学物質を選択する上で,機能上有望なものでも,後で毒性などの問題が発見され,研究の手戻りするなどむだの削減が研究の初期段階では重要ある。
 本研究は,物質の毒性を考慮するにあたり,第1種と第2種の誤りに対応するリスク管理の提案をしているが,市場でのリスク回避を重要した選択基準を提案している。一種のスクリーニング方法の研究であるが,材料選択のスクリーニング段階での将来リスクを回避する方法の挑戦を評価した。誤圧の適用にはそれなりの課題があるが,研究の初段階では,相関考慮のパ夕ーン認識というよりも,単位空間がすくなくてすむ誤圧でよいものとした。これは安全性をより考慮する方法ではコニカミノル夕のこれまでのデ一夕の積み重ねを調査して,その結果,有効性を実証する必要があるとする。化学,薬学,生物分野での毒性評価ではこのようなアプローチは異質であるため,どのように専門家に受け取られるかは実續を積み上げて汎用性を証明する必要があるであろう。今後の活動に期待したい。

【銀賞】着磁条件による磁石表面の磁東密度分布制御(Vol.23 No.5)

 本論文は第22回品質工学研究発表大会で大会実行委員長賞を獲得した事例である。専門メーカでも難しい課題に対し,生産技術と設計の協業,評価方法の工夫により目標を達成させた独自性がある。また,着磁を扱つた論文は少ないので参考になる。全体最適が大切であると頭で分かっていても,職場での実践となると難しいと感じる場面も多々あるのではないか。課題認識の階層をひとつ上げて,お互いに納得できる共通認識を持つ重要性が読み取れる。この共通認識の基軸を「お客様の価値」に置くことが品質工学の目的のひとつでもある。
 品質の確保には,開発のライフサイクルで,開発と生産技術・製造という組織論の間題がある。設計開発部門で仕様を決めたが, 生産工程でさらに改善を追求している。背反する特性を処理していることが特色である。生産現場でできることは限られているが,本研究はパラメータ設計と見られるがチューニングであると理解する。チューニングは,最終製品の品質を決めるものである。チューニングを詳細に研究している点は評価できる。下流での適用の成果は,マツダ社でも見られたように組織的展開の起爆にもある。今後のとりくみは,マクロ視点の取り組みとなる。今後の活動を期待したい。

【銀賞】JIS Z9090によるGPSロガーの評価(Vol.23 No.4)

 GPSロガーの一般ユーザーが,位置座標の計測器として,JIS Z9090にもとづき,使用者の立場で評価を行つた事例である。位置精度の上で疑間を持ち,8種類の製品の比較を行つている。使用者の立場としての誤差因子を取り上げ,信号として,実際の場所を用い,大がかりな実験を行った。結果として多くの情報を得ることとなり,機種間の差を客観的に見えるようにしている。
 また,損失関数を使うことで,どの機種を選ぶかの指針を示すとともに,より適切なアプローチ方法を示している。規格を忠実に適用し顧客者目線で評価する本事例は,模範的な事例となることも評価される。消費者の立場で評価する品質評価部の評価や,メーカでの取り組みとしても参考となる。

【銀賞】新規多機能照明企画に対する想定顧客のパターン認識による適合性評価と分類(Vol.23 No.6)

 新製品企画に対する想定顧客の適合性評価にMTシステムを適用して商品企画の妥当性の検証を試みた事例である。企業活動には,顧客ニーズにミートした製品やサービスを企画する上流の考えを下流で再現させて市場に価値を提供することが求められる。そのためには,最上流の企画が対象の顧客セグメンテーションに如何にマッチするかを的確に検証しなければならない。企画段階のアンケートから,企画の適合性,顧客セグメンテーションの検討にMTシステムを適用することで,企画の妥当性を評価することと,項日診断によって企画をさらに有効なものに見直すことを可能にするシステム構築の可能性を示した研究である。
 市場の層別は分類問題である。分類は,項目の取り方が重要であり,アンケートの項目の設計が重要であることを問題提起している。その点も評価した。

お問合せ

論文賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 中山,金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350