品質工学会 学生賞
2013年 学生賞
授賞の背景
これからの品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。品質工学会学生賞はこの活動を支援し、教育機関における品質工学の存在感を高めるための、優秀な学生の研究に対する賞である。
応募研究の中から、審査部会にて厳正に審査を実施し、下記1件の研究を選定した。受賞した研究は、学生であることを抜きにして、品質工学の研究として研究テーマと方法、考察など一般会員の平均以上の研究の質である。
学生賞は、現時点での評価だけでなく、将来の期待を込めて評価している。研究をさらに進め、より大きな成果を上げることを期待する。あわせて、受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。
受賞研究
題 目 | 望目特性のSN比から導かれる縮約統計量を使用したパターン情報の評価に関する研究 |
受賞者 | 大坂一司(学生会員)(日本大学大学院 生産工学研究科 マネジメント工学専攻 2年) |
指導教員 | 矢野耕也 |
研究の種類 | 修士論文 |
研究の概要
応募の際に受賞者より提出された概要を以下に記す。
品質工学では,パターン情報を評価する方法としてMTシステムが提唱されている。その中でRT法は,多重共線性に起因する制約条件を解決しているため,利用価値の高いものであると言える。しかしながら,効除数が0となるデータなど特殊なデータを用いると解析できない問題があり,解決すべき課題であった。そのRT法と関わりがあると考えられる解析法として,望目特性のSN比を利用したパターン距離を用いない解析方法(誤圧)を検討し,偽造が問題となる印鑑という画像パターンへの応用と,社会問題にもなっているコンピュータのキー入力(キーストロークダイナミックス)の本人識別という動作パターンへの応用を試みた。いずれも,真贋識別が目的の基本にある。印鑑では偽物と本物の識別であり,キー入力動作では本人と他人(成りすまし)である。
画像パターンへの応用では,印影を色の濃度数値へと変換し,解析することにより印鑑認証を試みた。解析方法はRT法と誤圧の2種類で行い,それぞれの識別精度を比較した。解析結果の両者の相関係数は0.95と高い正の相関を示しており,RT法に代わる解析法として誤圧を用いることが可能であることがわかった。なお,画像のパターンの評価は,製造業の外観検査や,指紋認証などのバイオメトリクス,動画解析など幅広い応用が期待できる。
次いで,動作パターンへの応用では,キーストローク認証,すなわち,キー入力動作のパターンから本人の識別を行い,また本人と他人の閾値について,本人を他人とする誤り率,他人を本人とする誤り率のデジタルの標準SN比から検討を行った。近年の著しいIT化に伴い,セキュリティの重要性が叫ばれ,本人しか持ちえない情報としてバイオメトリックスによる本人認証も活用され始めたが,指紋認証や、静脈認証などは,専用の機器が必要であるなどの負担がある。そこで,従来の方法であるパスワード入力による認証を活用し,パスワード情報と同時にパスワードのキー入力操作時間のパターンを評価することにより,ハードウェア技術的にもコスト的にも,またユーザへの負担が少ないという前提で認証を試みた。同一被験者でも誤圧のばらつきがあったが,本人を識別することは十分に可能であった。またデジタルの標準SN比と損失関数の応用により,経済的に妥当な閾値の算出も可能となった。このような技術的な動作解析によってその行為を見極めることが可能であれば,犯罪の防止や経済的被害の減少につながることが期待できる。
お問合せ
学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 中山,金野(こんの)
授賞・褒賞