品質工学会 学生賞

2014年 学生賞

2014年3月17日
品質工学会 審査部会

授賞の背景

 これからの品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。品質工学会学生賞はこの活動を支援し,教育機関における品質工学の存在感を高めるための,優秀な学生の研究に対する賞である。
 応募研究の中から,審査部会にて厳正に審査を実施し,下記1件の研究を選定した。受賞した研究は,学生であることを抜きにして,品質工学の研究として研究テーマと方法,考察など一般会員の平均以上の研究の質である。
 学生賞は,現時点での評価だけでなく,将来の期待を込めて評価している。研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。

受賞研究

題 目 品質工学による硬化肉盛溶接材料の仕上げ加工の最適化
受賞者 深谷健介(学生会員)(日本工業大学大学院 工学研究科機械工学専攻 2年)
指導教員 二ノ宮進一
研究の種類 修士論文

研究の概要

 応募の際に受賞者より提出された概要を以下に記す。
 石炭火力発電の燃料やセメント原料の石灰石などの粉砕には,大型の竪型ミルが利用されているが,ミル内部のローラやテーブルライナは使用に伴って偏摩耗が生じるため,現地で肉盛補修する方策が採用されている。しかし,硬化肉盛溶接材料は耐摩耗性や耐食性に優れるので,逆に,この材料特性が肉盛溶接後の仕上げ研削を非常に困難なものにしている。仕上げ研削は補修作業の最終工程に位置付けられるが,加工能率が著しく低く,頻繁に砥石が異常摩耗を起こすため,補修作業全体の自動化のネック工程となっている。
 本研究では,大径竪型ミルの補修作業の自動化を目指して,品質工学の機能性評価による硬化肉盛溶接材料の仕上げ研削工程の最適化に取り組んだ。エネルギーの入出力関係から,仕上げ研削の基本機能を主軸消費電力と研削除去量の直線性と定義し,その安定性を信号とノイズの比であるSN比で評価した。定圧仕上げ研削に関する制御因子のパラメータ設計を行った結果,加工安定性の向上には,砥石仕様の影響は小さく,加工方法や加工条件に大きく依存し,具体的には,プレヒートを施した被削材に対して,ミスト加工液を噴霧しながら低い押付圧力で間欠的に切込みを与えることが良いことがわかった。得られた最適条件の再現性は高く,これまで生産現場で採用されていた現行条件に対してSN比で6.2dbの利得があり,真数にして加工安定性が2倍向上することを明らかにした。
 得られた最適条件を実生産機に応用し,安定した加工能率を確保するとともに,砥石摩耗を従来の1/3に抑制できることを実証した。
 この結果は,大型プラントの現場補修という制約の多い条件下において,熟練作業者の従来の固定概念を覆す研究成果であり,大型プラントの肉盛溶接から仕上げ研削までの一連の工程を自動化する指針となった。さらに,本技術は,硬化肉盛溶接材料の溶接品質や耐摩耗特性の現場評価にも応用できることを示した。

お問合せ

学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 中山,金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350