品質工学会 学生賞
2019年 学生賞
授賞の背景
品質工学会は,教育機関における品質工学の活動を支援し,品質工学の存在感を高めるために,品質工学の取組に積極的な学生に学生賞を授与している。学生(大学院前期博士課程,修士課程,大学学部,高等専門学校)の自薦,または指導教員の推薦により応募された研究の中から決定される。
2018年12月1日(土)〜2019年1月31日(木)の間に募集をし,審査表彰部会にて厳正に審査した結果,下記の研究に学生賞を授与する。
受賞研究
題 目 | 異常検知を用いたプリント基板の外観検査手法に関する研究 |
受賞者 | 平林義彦(放送大学大学院 文化科学研究科 情報学プログラム 修士2年) |
指導教員 | 葉田善章 |
研究の種類 | 修士論文 |
研究の概要
応募の際に受賞者より提出された研究概要を以下に記す。
電子部品の主要な部品であるプリント基板は,不良品の流出を防ぐため,外観検査が行われている。プリント基板とは,絶縁体でできた板の上や内部に,銅などの導体の配線を施した構造になっており,電子部品が実装される前の状態のものを言う。コンデンサやICなどの電子部品を実装する前の状態にて,プリント基板の良品が保証されていることが電子機器を製造する過程で,無駄な不良品を作らないために重要である。そのため,プリント基板を製造する工場や電子部品を実装する工場にて,プリント基板の外観検査が行われている。
本研究では,プリント基板のパターン配線,シルク印刷を人が目視で良否判断できる外観検査を対象とした。そこで,良品の特徴量を単位空間(基準データ群)とする良品判定方法に着目し,異常検知を用いた手法を提案する。
提案する手法は,次元削減手法とRT法を組み合わせたアルゴリズムである。次元削減は特徴量抽出を行いRT法で良品を基準とした良否判定を行う。そして,次元削減手法を複数用いることで,それぞれの特徴量の捉え方がことなる異なるため,検出できる不良の種類が異なることを狙った。
RT法(Recognition Taguchi:認識のためのタグチ法)とは,多項目の情報を感度とSN比の2項目に集約し,分散・共分散行列により,単位空間の中心からの距離を求める手法である。
良品のサンプル画像のみで,特徴量を獲得することは,3つの次元削減手法(PCA,t-SNE,畳み込みとプーリング)にて行った。PCAは線形の次元削減手法であることから,画像全体の特徴を捉えることができた。t-SNEは非線形の次元削減手法であり,PCAの欠点(識別に有利な次元が残るとは限らない)を補完することができる。そのため,画像全体をPCAで行い,部分的にはt-SNEで行う組み合わせの検査が有効であることが確認できた。
畳み込みとプーリングを行いPCAと同等の特徴量抽出を目指したが,PCAよりも劣る結果であった。フィルタ処理などの改善が課題である。
審査結果
学生賞の審査は,研究内容の先行性,汎用性,再現性だけでなく,論文としての論理性や一貫性,さらには当該研究の社会的影響などを総合的に判断して審査する。ただし,学生賞に関しては,現時点での評価だけでなく,将来の期待も込めて評価している。研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受講者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。以上のことを踏まえて審査した結果,以下の理由により,本論文を品質工学学生賞に相応しい論文であると判断した。
本研究は,プリント基板の外観を検査するアルゴリズムを提案している。次元削減法の優劣を比較するベースとするために,事前学習がほぼ不要なMTシステム(ここではRT法)に着目し,その特徴をよく理解して,情報を総合する技術として活用している。多くの制約条件の中で,よく検討し,識別の可能性について研究されている点が評価に値する。しかしその一方で,成果の大きさについて考察が不足していると感じる。今後の取り組みの中で,損失関数を用いて判別能力を定量化することにぜひトライすることを期待する。
授賞式
左より, 清水 真氏(放送大学 三重学習センター 所長)、葉田善章氏(放送大学大学院 准教授)、平林義彦氏(放送大学大学院 修士)、吉澤正孝氏(品質工学会理事 副会長)
お問合せ
学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 中山,金野(こんの)
授賞・褒賞