品質工学会 学生賞

2020年 学生賞

2020年4月1日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 一般社団法人品質工学会は、教育機関における品質工学の活用研究を支援するために、品質工学の取組みに積極的な学生の研究に一般社団法人品質工学会学生賞を授与している。学生賞は、学生(大学院前期博士課程、修士課程、大学学部、高等専門学校)の自薦、または指導教員の推薦により応募された研究の中から選定される。
 2019122()2020131()の期間に募集し、応募された研究について審査表彰部会にて厳正に審査した結果、下記の研究に一般社団法人品質工学会学生賞を授与することに決定した。

受賞研究

題 目 Robust design method based on evaluation index in consideration of the designer’s intention(設計意図を考慮した評価指標に基づくロバスト設計手法)
受賞者 軽部達也(明治大学大学院理工学研究科機械工学専攻 博士前期課程1年)
共同研究者 水庫優果,宮城善一,井上全人
指導教員 宮城善一,井上全人
研究の種類 日本機械工学会 国際会議(JSME iDECON/MS2019)にて研究発表

研究の概要

 応募の際に受賞者より提出された研究概要を以下に記す。
 計測装置には、計測誤差を最小限にし、精度の高い計測結果が得られるロバスト性の高い設計が求められる。計測装置の設計においては,高いロバスト性を確保するために,従来,品質工学に基づくパラメータ設計が用いられてきた。パラメータ設計では,直交表に用いた実験により,SN比を最大化する実験条件を導くことを目的としており,誤差要因に対してロバスト性の高い最適条件を導出することが可能である。パラメータ設計では,制御因子の水準値をポイント値で表現し,定義した水準値からSN比の高い制御因子の組み合わせである最適条件が選択されるが,さらに水準値近傍の条件を探索する場合には,新たに水準値外の実験条件で追加実験を行う必要がある。また、計測装置を設計する設計初期段階では,制御因子や誤差因子を含む設計パラメータに不確実な設計情報が含まれるため,水準値の設定は設計者の経験に依存することが多い。
 本研究では,設計初期段階での不確実な設計情報が含まれる制御因子をポイント値ではなく範囲値で表現することで,要求性能(高いSN比)を満足する範囲解を導出するセットベース設計の概念に基づき,水準値外の設計パラメータ値が探索可能で,多様な範囲解(高いSN比を有する複数の条件)を導出する設計方法を提案した。そして,多様な範囲解から設計者が設計意図に適した解を選択するために,設計者の設計意図を定量化した選考度(基準)に基づき,設計者の設計意図を評価する指標を提案した。導出した多様な範囲解を提案指標により評価することで,設計の解空間が可視化でき,設計者の意図が反映された高いSN比を有する解の探索が可能となる。提案手法を剥離試験装置の設計に適用し,従来のパラメータ設計によって推定される最適条件を基準としてSN比の最適設計条件の範囲解を求めた結果,提案手法により,パラメータ設計で定義した水準値外に高いSN比の解を導出することができた。

審査結果

 学生賞の審査は,研究内容の先行性,汎用性,再現性だけでなく,研究としての論理性や一貫性,さらには当該研究の社会的影響などを総合的に判断して審査する。さらには,現時点での評価だけでなく,将来の期待も込めて評価している。受賞者には,研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。以上のことを踏まえて審査した結果,本研究を2019年一般社団法人品質工学会学生賞に相応しい研究事例であると判断した。選定理由を以下に述べる。
 本研究は,品質工学のパラメータ設計手法にセットベースデザイン手法のコンセプトを組み入れた設計アプローチを提案している。剥離試験装置の設計を具体的な題材にパラメータ設計を実施した結果を元にSBD手法を活用し,直交表に割り付けきれなかった外部水準を含む設計範囲で最適解を獲得できる見通しを得たとしている。既存のパラメータ設計手法に縛られず,その発展型を模索する研究姿勢は評価に値する。
 しかしながら,研究事例としてはまだ設計結果の検証が不十分であり,現段階では研究の狙いを達成できたとは言い切れない。今後の研究の進展に期待したい。また、題材とした剥離試験装置は,多目的最適化や設計意図の反映といったSBD手法の特徴を活かしづらい設計対象に感じる。こうした観点も含め,今後の取り組みを進める中で考察も深め,研究論文としてまとめ上げられることを期待する。

お問合せ

学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
  品質工学会事務局 金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350