品質工学会 学生賞

2022年 学生賞

2022年4月1日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。品質工学会学生賞はこの活動を支援し,教育機関における品質工学の存在感を高めるための,優秀な学生の研究に対する賞である。
 応募された研究について審査表彰部会にて厳正に審査を実施し,下記の研究を2022年品質工学会学生賞に選定した.
 本賞は現時点の成果はもとより今後の研究の深化への期待も込めて評価している。受賞者には,研究をさらに進めてさらに大きな成果を上げることを期待する。あわせて受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。

受賞研究

題 目 3Dプリンタ試作品と射出成形部品におけるスナップフィットの機械的物性値関係性調査
受賞者 國松遙平(九州工業大学 情報工学部 知的システム工学科 4年)
指導教員 楢原弘之(九州工業大学大学院 情報工学研究院 教授)
研究の種類 卒業研究

受賞研究の概要と審査表彰部会コメント

応募の際に受賞者より提出された研究概要および審査表彰部会による選定理由を以下に記す。
 
[研究題目]
 3Dプリンタ試作品と射出成形部品におけるスナップフィットの機械的物性値関係性調査
 
[研究概要]
 SDGs等、環境配慮設計の必要性が高まる中で、ねじによる締結を用いず、プラスチック射出成形部品にスナップフィット構造を組み込んで、易組立性、易分解性を容易とする事の重要性が高まっている。スナップフィットとは、機械的接合法の一種で、部品に設けた凸部を、材料の弾性を利用して受け手側の凹部にはめ込んで引っ掛けることにより、機械的に固定する組立て方法である。
 試作評価のために金型を起こす事は、コストがかかるため、最近では3Dプリンタにより部品を試作する事が行われているが、多くは外観評価に留まっている。この理由として、3Dプリンタで造形される部品の材質が異なる、物性的挙動が異なる事などが言われている。樹脂成形部品と3Dプリンタ造形品との材料物性の相関関係などが十分に研究調査されていない事も大きな理由の一つである。
そこで本研究では、製品開発段階における3Dプリンタの適用可能範囲を、外観評価のみならず組付け機能評価などへもさらに拡げる事を最終的な目標とする。本研究では特に、樹脂部品のスナップフィット構造を対象とし、スナップ組付け性などの設計に対して必要となってくる機械的物性値についての基礎的研究を進める。
最終製品としての射出成形部品の機能評価を、3Dプリンタ部品に基づいて予測するためには、部品形状に関わらず、ばらつきの少ない機械物性値を示すように造形されることが望ましい。このために、3Dプリンタ部品の機械的特性値のばらつきが少なくなるための造形条件を、パラメータ設計を実施して造形パラメータの最適条件を求めた。この造形条件に基づき、カンチレバー型のスナップフィット部品を3Dプリンタと射出成形で製造した部品で調査した。各部品に対して曲げ試験を行い、応力ひずみ線図を求め、相互の機械的物性値の挙動を比較した。また、3Dプリンタ部品と射出成形部品の割線弾性係数を算出し、相互の製造法の違いによる関係性調査を行った。本研究により、3Dプリンタ部品では、応力が63 [MPa]を超えると破断の可能性があることがわかった。また 本実験で算出した割線弾性係数は厚さW が減少するごとに増加する傾向を示した。スナップフィットの厚さ W は、ひずみεに影響する可能性がある、という結果が得られた。今後これらの実験結果をさらに分析することにより、組付け機能評価等への適用につなげていく予定である。
 
[学生賞選定理由]
 当該論文は九州工業大学の卒業論文である。3Dプリンタの成形品作製条件の最適化にあたり、成形品の荷重-たわみ量の関係を機能として設定し、その安定化を図っている。評価方法としては定石とも言えるが、確認実験までしっかりと実施している点は評価に値する。本研究において特筆すべき点は、スナップフィット部品の合理的な設計指針を得ることを目的とする研究において、その評価のための3Dプリンタ成形から最適化を積み上げる研究方針を採用していることである。研究の基盤を整える段階からパラメータ設計を活用する発想は、研究者にとって重要なものと考える。
 ただし、以下のような問題点も指摘された。品質工学の活用としては実験データの安定性向上に留まる点、スケールアップしたときの問題、簡易射出と量産射出の関係、スナップショットの厚さが歪に影響する可能性があるという論理展開に対する疑義など。しかし、応募者は品質工学を自発的に勉強し、研究に活用した意欲は高く評価できる。学生賞は、「教育機関における品質工学の取り組み活動を支援し,教育機関に品質工学の存在感を高めるために,品質工学の取り組みに積極的な学生の研究に贈呈される賞」であることから、今後への期待を込めて学生賞を贈呈する事が望ましいと考えた。

お問合せ

学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
  品質工学会事務局 金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350