品質工学会 学生賞
2023年 学生賞
授賞の背景
品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。品質工学会学生賞はこの活動を支援し,教育機関における品質工学の存在感を高めるための,優秀な学生の研究に対する賞である。
応募された研究について審査表彰部会にて厳正に審査を実施し,下記の研究を2023年品質工学会学生賞に選定した.
本賞は現時点の成果はもとより今後の研究の深化への期待も込めて評価している。受賞者には,研究をさらに進めてさらに大きな成果を上げることを期待する。あわせて受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。
受賞研究
題 目 | ①金型稼働状態監視および可視化に関する教育システムの検討 ②IoTによる品質管理に向けた金型の状態監視および可視化システムの検討 ③金型変形挙動可視化へのMT法の適用 ④MTシステムを用いた射出成形における糸引き異常検知手法 |
受賞者 | 金城 寿(埼玉工業大学大学院 工学研究科 博士前期課程2年) |
指導教員 | 福島祥夫(埼玉工業大学大学院 工学研究科 教授) |
研究の種類 | 研究発表大会発表/学会誌論文(投稿中) |
題 目 | 動揺測定データリンク型列車防護用台車モニタリングシステムの研究 |
受賞者 | 池田圭佑(埼玉工業大学大学院 工学研究科 修士2年) |
指導教員 | 河田直樹(埼玉工業大学大学院 工学研究科 教授) |
研究の種類 | 修士論文 |
題 目 | 筋電義手ハンドコントローラのRT 法による安定動作のパラメータ推定 |
受賞者 | 内藤賢宏(東京電機大学大学院 理工学研究科 電子工学専攻 修士2年) |
指導教員 | 大西謙吾(東京電機大学 理工学研究科 電子工学専攻 教授) |
研究の種類 | 修士論文 |
受賞研究の概要と審査表彰部会コメント
応募の際に研究概要および審査表彰部会による選定理由を以下に記す。
[研究題目]
①金型稼働状態監視および可視化に関する教育システムの検討/②IoT による品質管理に向けた金型の状態監視および可視化システムの検討/③金型変形挙動可視化へのMT 法の適用/④MT システムを用いた射出成形における糸引き異常検知手法
[研究概要と学生賞選定理由]
工場施設・機器の状態の効率的な状態監視技術が産業分野でも幅広く活用されはじめている。本研究は,プラスチック射出成形加工に向けた低コストの金型稼働状態監視システムの構築を目指すものである。金型にひずみゲージを設置して樹脂成形中の稼働状態を取得して金型の変形状態を可視化するとともにMT法を適用し異常検知の判別を行った。その結果,視覚だけでは分からない金型の異常状態をMT法で高い感度で判別可能である事を示した。
次に、成形品を金型から取り出す際にスプール部に発生する糸引き異常の検知の研究を行った。実際の糸引き現象を想定して、型締め時の異物挟み込み状態を実験的に作り出し、ひずみゲージのデータにMT法を適用し、異常検知に最適な指標組み合わせを見出した。現時点では最小で直径0.05mm程度の糸の挟み込みまで検知可能である。
MTシステムを適切に活用して本システムの状態監視機能の有効性を示した点を高く評価した。さらに、試作したGUIもユーザフレンドリーな仕様になっており、プログラミングを専門としない技術者でも利用しやすい環境を構築した点も高く評価した。
[研究題目]
動揺測定データリンク型列車防護用台車モニタリングシステムの研究
[研究概要と学生賞選定理由]
鉄道車両の状態基準保全を実現するには、状態監視技術の導入が必要である。状態監視技術の検討には様々な状態の車両動揺データを多数必要とするが、データ取得は容易ではなく試験費用の増大や試験場所の確保、異常状態試験時の安全確保が現実問題となる。
そこで,本研究ではまず列車模型を使い、低速度域を模擬した走行試験と前述の高速度域を模擬した台上試験で得られるデータを組み合わせた車両動揺データリンク型台車モニタリングシステムの構築に取り組んだ。
次に,より汎用性の高い状態監視システムの実現のため,MT法の適用を検討した.具体的には各試験の測定データから車両の振動特性を考慮した特徴的な5つの周波数帯をそれぞれ抽出し,そこから移動平均,区間二乗和,RMS値を導出して特徴項目とした.マハラノビス距離(MD)による異常検知、項目診断による異常の種類特定を試みた結果、脱線,フラット(各速度域に対応),蛇行動の他,正常状態の速度変化が判別可能な結果を得ることに成功している。模擬台上試験装置を活用してMT法をベースにした状態監視技術の実用化に高い可能性を得た点を高く評価した。
[研究題目]
筋電義手ハンドコントローラのRT 法による安定動作のパラメータ推定
[研究概要と学生賞選定理由]
筋電義手ハンドコントローラには、筋活動レベルに応じた高精度な操作信号出力が望まれる。本研究は筋電センサ感度の自動調整機能を有する信号処理システムの開発を目的に取り組まれた。
まずは表面筋電信号(MES)パターンから汗や筋疲労の影響を受けずに高い識別精度獲得を期待できる特徴情報を抽出し、次いでRT法をベースとするMES処理システムのパラメータ設計を実施した。システムの基本機能を、対象筋のMES、出力を対象筋安静時に対する相違度とした。筋電義手においては手の開動作時のMESと閉動作時のMESは独立していることが望まれるため、両MES入力に対し各々パラメータ設計を行っている。最適条件について確認実験を行なった結果、開動作MES入力システムではSN比、感度ともに高い再現性が得られた一方、閉動作MES入力システムではSN比改善は認められたものの十分な再現性は得られなかった。
まだいくつかの検討課題を残すが、RT法、パラメータ設計を効果的に活用して堅牢かつ精密なMES処理システム実現に見通しを立てた本取り組みを高く評価した。
お問合せ
学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 金野(こんの)
授賞・褒賞