オフライン品質工学の展望
オフライン品質工学の展望(2)
品質の分類
品質には4つの段階があり、評価する特性の扱い方も、何に使うかも変わってくる。一番判り易いのは下流品質で、これは品物が発熱する、振動、騒音が大きい、或いは電力消費が大き過ぎるなど、直接顧客からクレームになる項目である。これらは本来の製品機能を表すものではなく、弊害の大きさを示すものである。この品質は市場における品質で経営評価に必要であるか、技術的な物差しとしては不適当なものである。
第2は中流品質で、これは仕様、規格値に対して特性か低い、ばらつきが大きい、或いは不良率か高いなどである。この品質は製造の品質で、工程の管埋或いは品物の検査に用いるもので、技術を評価するものではない。
第3は上流品質で、これは製品としての目的機能を表すものであるが、単に特性値かどうであるかではなく、各種誤差を考慮し、機能性(安定性)を表すものである。従って表現には専ら静的SN比が用いられ、製品設計、工程設計の評価に用いられる。
第4は源流品質である。多くの加工機能、製品の目的機能はエネルギー変換である。これを技術機能性と呼ぶが、入力エネルギーが誤差の影響を受けることなく、出力の仕事量に変換(比例関係が成立)すれば、なんらの弊害事項も起こらない。源流品質は工程、製品の機能を要素技術に分解したもので、動的SN比で表し、技術開発の評価に有効な品質である。
商品開発から技術開発へ
商品開発力が企業のこれからの発展を左右すると言っても過言ではない。開発力を飛躍的に強化する方法は技術開発にある。従来は商品開発に入ってからその商品に対する商品技術、工程技術の研究に入っていた。製品毎に設計研究をしていたのでは能率が悪く、商品開発に時間がかかるのが当然で、研究不十分となり、その結果、品質トラブルが生じ、更に設計変更による納期遅れなどが生していたのである。個々の商品開発に先行して近い将来に必要となるであろう商品および工程の要素技術を開発しておけば、商品開発はそれらの要素技術を組み合わせるだけということになり、極めて短時間で完了することができる。
技術開発
商品コンセプト(概念)と目的機能を決めるとき、アイディアが先行しても駄目で、製品機能が実現可能であることと、それを作るための技術(方法)が開発されていることが前提となる。顧客の満足度を高める画期的な商品を作るためには、それを作る新しい技術か必要であり、製品企画に先立って、作る手段(物作りだけでなく機能を実現する方法も)の技術開発が必要となる。技術開発の特徴は商品開発に先行して行うもので、まだ仕様も設計図もできていないのであるから、仕様を設計図に合うように調整することではない。従って先行技術を含むものであれば、単純な構造のサンプルを用いて研究しても良いわけである。
その先行技術を含むモデルサンプルに対して自分の望むように、しかも確実に機能するような物を作ることができるようになれば、商品コンセプトが決まった時点ですぐそのコンセプトを実現する商品を作ることができるのである。作られた品物の理想状態(誤差の影響を受けていない状態)からのばらつき(不安定なずれ)を小さくするのが品質工学の中心課題で、ある値のものを作ることではない。
基本機能(技術の機能)
商品は要素技術の集合体である。技術閲発は要素技術に分解して行う。各基本機能は要素技術まで分解すると物理法則の成立となる。殆どの商品機能、加工工程の基本機能は、入力エネルギーを出力としての仕事量に変える、物理量の変換である。判り易い仮定の例で説明する。
ここに通信衛星がある。要素技術に分解すれば、進部、制御管制部、電源部(太陽電池)、受信部、送信部などに分かれる。基本機能(技術の機能)を考えると、推進部では入力が燃料の消費量で、出力が推力、電源部では入力が受光時闇、あるいは受光照度で、出力が発電量、制御管制部では入力が受信入力電圧で、出力が制御電流となるであろう。実際にはもっと基本構造にまでブレークダウンする必要がある。例えば1個のバネがあり、入力として加える力を、出力として変位量を取れば、フックの法則が成立するはずで、入出力の関係は理想状態で直線関係となる。
ここで、入力エネルギーが全部仕事量に変換されれば、機能として全くロスがないことになる。しかし、もし入力を増やして行っても入力に比例するだけの仕事がなされないならば、その差分だけエネルギーが目的の使用以外に使われることになり、これが弊害項目となって現れてくるのである。また入力エネルギーが小さいときに目的の機能が働き始めないと、ここでも弊害事項が発生する。もしゼロに近い低エネルギーでもそれに対応する微少な仕事をするのであれば、精密技術、微細技術への展開に繋がるものとなる。即ち、横軸の入力エネルギーに対し縦軸の出力(仕事量)が直線関係となるのが基本機能(技術の機能)の理想状態ということになる。
商品機能の開発と工程機能の開発
商品企画に先立って研究開発をしておく要素技術には2つの面があり、1つは色々な機能を持つそれぞれの商品を揃えるための、商品機能の基本技術である。もう1つはそれらの商品を作る多様な一連の加工工程の、加工機能の各種基本技術である。
技術開発を行うとき、まず商品の機能を研究し次いで加工の機能を研究しようとしても、相互に関連を持っていることが多いので、能率の悪い研究となりかねない。商品の基本機能と加工の基本機能を、同時に並行して研究開発することが、技術力の向上にとって重要となってくる。これを並行開発と呼んでいる。
先行性、汎用性、下流再現性
商品および加工の技術開発を行うとき、先行性、汎用性、再現性の3点が重要である。技術開発といっても特に新奇な方法を採ることではなく、当面の商品開発を行うとき、近未来の範囲まで広げて要素技術の開発を行えばよい。
特定製品の目標達成ではないのであるから、1~5年先の商品群を予想して加工の技術、商品の要求条件の範囲を広げて検討し、それに対して適用できるような技術検討を行うことが大切である。【先行性】
商品企画に先立って技術開発を行うのであるから、特定製品について、仕様書、図面に適合する品物(良品)を作るのではない。未だ図面がないからどんなサンブルでも良いわけで、研究のためのサンプルは広い適用範囲をカバーし、しかも先行技術を含むようなものであれば、測定容易な単純な構造のものが良く、あるいは旧タイプの廃止モデルをサンプルに利用して、基本機能の研究をすることもできる。【汎用性】
商品のコンセプトが定まっていない時期での先行研究であるから、どのような多様な要求項目(使用条件)を満たすべきかは決められない。しかし商品あるいは加工の基本機能を見定め、それを最適化する条件は、多くの場合、付随する関連項目も同時に最適化することができるはずである。したがって、基本的な機能をよく研究すれば、副次特性も弊害項目の検討も不要となり、技術強化が容易となる。【下流再現性】
「ばらつき」の経済評価
許容差を適正に与えることは、コストの低減、信頼性の確保のために必須である。この問題は後で論ずることにして、ここでは適正な許容差が与えられているものとする。規格値が与えられると、規格値内の品物は良品で、規格値を超えた品物は不良品であるとされる。契約上は確かにそうであるが、規格値の前後で品質上の不連続があるとは考えられない。
一般には下図のように品質は連続のはずである。設計値mのとき最も良好で、特性値か大きくなっても小さくなっても、目標値mのからの距離に比例して悪さが増大する。しかし、ある値を超えるまでは直接的なトラブルとはならない。その値を機能限界と呼び、⊿0で表す。機能限界を超えると大きな損害A0円が発生する。その手前までは当面上の損害は見えないが、潜在的損害か生じているのであって決してゼロではない。それを式で表せば式(1)のようである。式(1)は1個の品物についてのばらつきの経済的評価であるが、集団で考えるなら式(2)のようになる。この関係を損失関数と呼ぶ。
注意を要するのは、機能限界を超えたときの損失A0は、一般に、製造コストあるいは製品価格とは関係なく決められるいということである。例えば、1個1000円のリベットを航空機に付けて、それが強度不足で折損したときの社会的損失は数億円を超えるかも知れないということからもわかる。