公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞
2019年 論文賞 金賞・銀賞
授賞の背景
公益財団法人精密測定技術振興財団 品質工学賞 論文賞審査委員会(論文賞審査委員長および審査委員 計16名)は、2019年2月23日に論文賞審査会を開催し、2017年および2018年の品質工学会誌に掲載された研究論文15件について厳正に審査を行った。その結果、下記の論文3編を2019年度公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞(金賞1件、銀賞2件)として選定した。
受賞論文
金賞 | 題 目 | フレームハード品質の安定化(Vol.26 No.5) |
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受賞者 | 大塚宏明*1,小田上 進*2,潮田丈晴*2,井上 満*2,福本康博*1 ( *1 マツダ(株) 正会員,*2 マツダ(株) ) |
銀賞 | 題 目 | 経営の立場で観る品質工学推進の課題-アンケートの誤圧による分析-(Vol.26 No.4) |
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受賞者 | 近岡 淳*1,齊藤 潔*2,中島建夫*3,笠 俊司*4 ( *1 (有)近岡技術経営研究所 正会員,*2 元 富士ゼロックス(株) 名誉会員,*3 東京電機大学 名誉会員,*4 (株)IHI 正会員 ) |
銀賞 | 題 目 | MTシステムによる適正レセプトの評価-単位空間メンバーが1つの場合の評価法-(Vol.26 No.2) |
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受賞者 | 矢野耕也*1,中島尚登*2,長澤薫子*3,小林英史*3,横田邦信*3,松平 浩*2,上竹慎一郎*2,高木一郎*2 ( *1 日本大学 正会員,*2 東京慈恵会医科大学 正会員,*3 東京慈恵会医科大学 ) |
選定理由
○ フレームハード品質の安定化(Vol.26 No.5)
マツダ社では「技能の技術化」を課題に掲げ,生産現場で活躍する熟練者の高度な技能を技術に転換する取り組みを進めている。そして,そこでは品質工学が極めて重要な役割を果たしている。その中でフレームハードニング作業の技術化に取り組んだ本研究では,技能を技術化した成果物のひとつとして高効率な専用冶具を早期開発し具現化した。
金型のフレームハードニング処理を安定して行うのは極めて困難であり,従来,その作業は一部の熟練者の技能に頼っていた。そこで大塚らは品質工学の技術を存分に活用して,熟練者からフレームハードニング処理に関わる経験値をバーチャルパラメータ評価で表出化し,技術的に納得ができない領域を抽出し,実物テストピースでパラメータ設計を行い処理作業の最適化を発見した。加えてMTシステムを活用して作業ばらつき要因の抽出を行い,作業ばらつきを縮小するための独自のフレームハードニング専用冶具の開発に成功した。
この一連の研究を通して,品質工学の考えと手法を巧みに使い,熟練者の技能の計測と評価、暗黙知の抽出と整理も効果的に行っており,品質工学による機能性測定の開発の価値,適用対象の広さを具体的に示したことを高く評価した。
○ 経営の立場で観る品質工学推進の課題-アンケートの誤圧による分析-(Vol.26 No.4)
品質工学の考えと手法の効果は多くの実施例の報告で明らかであるが,企業や研究機関の活動の一部に用いられるだけでは業績に結びつかない場合が多い。本研究は,企業内における効果的な品質工学活動推進の方法と課題の把握,組織マネジメントの在り方を検討することを目的に,品質工学推進状況の異なる企業28社を対象にアンケート調査を行い,マネジメント上の効果的な活動の探索を行っている。具体的には,対象企業の調査情報に対してMTシステムを活用して総合判断指標を作成し,対象企業ごとに特徴抽出を試みている。その結果,特に重要な項目として「技術プロセスの改革」「推進プロモータの存在」「活動継続の仕組み」を見出し,考察を通して組織マネジメントへの提言を行っている。
アンケート調査は常にその信頼性を問われるが,本研究の特色として,優れていると考えられる企業をベンチマークに設定して相対比較による回答を蒐集するなど,MTシステムによる解析を想定した工夫がみられる。組織マネジメントレベルの計測,評価にはMTシステムが極めて有効であることが示されている。ただし,アンケート調査の限界から企業ごとに代表者1名の回答を蒐集したようだが,回答に対する代表性の問題は残る。また,業態の違い,企業風土の違いから,理想的な品質工学推進方法,組織マネジメントの形が一律なものかどうかは本研究だけでは明らかにはできないと考える。しかし,品質工学の組織的有効活動という機能における機能性評価の方向を見出していることは評価される。今後,さらなる調査範囲の拡大,マネジメントレベル評価研究の深堀が期待される。
○ MTシステムによる適正レセプトの評価-単位空間メンバーが1つの場合の評価法-(Vol.26 No.2)
医療機関により作成されるレセプト(医療報酬明細書)は,国民健康保険団体連合会などの審査を経た後,保険者に医療費が請求される。実際には,審査で不備があると判断され,医療機関に差し戻されたり,診療点数が減点されたりすることも少なくないようである。本研究は,レセプトの適正さを評価する異常判断情報処理システムの機能性評価の測度の開発にあたり,MTシステム適用の可能性を探る挑戦的な試みであり,新たな領域に踏み込んだ研究であることを評価したい。
具体的には,レセプトは疾患毎に診断料,管理料,処方料が症状により点数化されるが,その点数は項目により常に一定の点数である。このような情報に対して,症状毎の基準が定まっているわけでない。どのように基準となるデータを正常なレセプトかが判断の基準となる。項目が漏れていればそれは過小処理がなされていることになり,多ければ過大処理がされていることになる。本研究では症状毎に最頻度で点数化されているデータを基準とし,その基準点数と相関が高いかどうかで正常かどうかの判断を行う処理システムを設計している。品質工学の標準SN比を適用しつつ,複数案のSN比を考案し,比較検討している。本報告ではまだ最終判断できるレベルに至っていないものの,識別の可能性は得られている。傷病の種類が同じであれば診療行為も同じという仮説を置いているが,この点には課題が残る。実際には患者ごとに傷病の状態や程度は異なるであろうし,また,複数の傷病の併発,既往歴の有無などがあれば適応すべき診療も増えることになる。単位空間を一つとするのが良いのか引き続き議論が必要だろう。
レセプトの不備は医療機関だけでなく,審査機関,保険者,患者も含めて社会全体に大きな損失を発生している可能性がある。引き続き研究を進めて,医療レセプトの不備による社会損失についても言及するとともに,MTシステムによる評価の有用性が具体的に示されることを期待する。
お問合せ
論文賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 中山,金野(こんの)
授賞・褒賞