公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2020年 論文賞 金賞・銀賞

2020年7月1日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 公益財団法人精密測定技術振興財団 品質工学賞 論文賞審査委員会(論文賞審査委員長および審査委員 計20名)は、2020年4月25日に論文賞審査会を開催し、2018年および2019年の品質工学会誌に掲載された研究論文12件について厳正に審査を行った。その結果、下記の論文2編を2020年度公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞(金賞1件、銀賞1件)として選定した。

受賞論文

金賞 題 目 大型超硬合金金型の一貫体制製造技術の構築に関する研究 -高効率直彫り加工を実現する切削工具形状および最適加工条件の検討-(Vol.27 No.5)
受賞者 山本桂一郎*1,若宮寛明*2,早川幸弘*1,飯田祐也*3,高崎雅志*3,梶谷理香*3,酒谷隆晴*2,林 憲一*4
(*1 富山高等専門学校 正会員,*2 (株)エイ・エム・シィ,*3 富山高等専門学校,*4 (株)ノトアロイ 正会員)

銀賞 題 目 電子基板製造ラインにおける検査改善 -低解像度画像を用いたMTシステム判別手法による組立異常監視-(Vol.27 No.4)
受賞者 山田哲司*1,山口直樹*2,救仁郷 誠*3
(*1 富士ゼロックスマニュファクチャリング(株) 正会員,*2 富士ゼロックスマニュファクチャリング(株),*3 富士ゼロックス(株) 正会員)

選定理由

○ 大型超硬合金金型の一貫体制製造技術の構築に関する研究 -高効率直彫り加工を実現する切削工具形状および最適加工条件の検討-(Vol.27 No.5

 
 本研究論文は,型彫り放電加工に代えて直彫り加工による超硬合金金型製造技術の構築を目指し,取り組んだものである。難易度の極めて高いビッグプロジェクトを完遂させるために,筆者らは品質工学をその基盤に据え、粘り強く技術開発に取り組んだ。
 論文の内容は1編にまとめてしまうのはもったいないと思えるほどに濃い。本プロジェクトは単なる技術開発ではなく,最初から企業間連携による事業化を意図したプロジェクトであり,その研究開発体制の構築から始まっている。超硬素材メーカー,金型加工メーカーはもちろん,工業試験場、産業創出研究機構といった公的機関,さらに事業化に向けたアドバイザ企業,そして品質工学のエキスパートとして富山高専,北陸品質工学研究会が加わった体制である。顔ぶれとしては申し分ないが,これほど立場の違う組織メンバーの意識ベクトルを一方向に揃えるのは容易ではない。案の定,論文の各所から意識合わせの苦労がうかがえる。筆者らは,とにかく意見を出し合い協議する事を重視したようだ。パラメータ設計の結果についても利得再現性に関わらずとことん議論し,次の方向を決めることを徹底した。結果,6回ものパラメータ設計を積み上げることになったが,その努力に余りある十分な技術成果の獲得に成功している。別報となる素材のニアネットシェイプ化の技術構築も併せて,従来の放電加工では実現しえなかった高耐久性,高信頼性の超硬合金金型を従来よりも低コストで実現した。
 このプロジェクトは,国の戦略的基盤技術高度化支援事業の補助金交付を受けて実施されたようだが,これほどの技術成果が得られたのであるから,国の支援事業としても大成功と言えるのではないだろうか。品質工学を基盤にプロジェクトに取り組んだ研究は他にもあるが,これほどのビッグプロジェクトを成功させ、事業化に導いた研究は多くない。技術開発の生産性向上,社会損失の大幅低減を旗印とする品質工学の持つポテンシャルを見事なまでに具体的に示した研究開発実践を高く評価したい。品質工学実践に取り組む多くの技術者にいっそうの自信を与え,プロジェクトマネジメントに悩む多くのマネージャに気付きを与え,さらに挑戦的な取り組みと技術成果が増えてくることを期待している。

○ 電子基板製造ラインにおける検査改善 -低解像度画像を用いたMTシステム判別手法による組立異常監視-(Vol.27 No.4)

 
 本論文は,実際の電子基板製造ラインに適用される外観検査システムの自動化に関するものである。筆者らは,これまで検査員の目視に頼って行われていた検査工程を代替する自動検査システムとして,カメラにより撮像した基盤画像から合否を判定する技術の構築に取り組んだ。
 外観検査システムの自動化においては,高解像度カメラで構成されたシステムが推奨されることが少なくないが,筆者らはあえてコスト面で有利な低解像度カメラを用いる検査システムの構築に挑戦した。決め手となったのはMTシステムである。MTシステムの特徴の一つに,少ない情報量でも高精度な判別・診断を実現できる点がある。本研究論文は,MTシステムの特徴を技術成果とともに具体的に示している。さらには,獲得した技術成果を実際の製造ラインに適用して生産性の大幅な向上を果たしたことで,MTシステムによる外観検査システムの高い実用性も示している。こうした点を大いに評価したい。
 本研究の内容について,当該の検査システムの判定能力を判断する際に用いた信号(不合格品)が不足していることを懸念する指摘がある。筆者らは豊富な経験をもとに,実用性は十分なレベルにあるとみているようだ。このあたりは,実際の電子基板製造ラインで運用を継続する中でさらなる検証も進むであろう。実際に稼働している製造ラインの技術課題であるから,新たなシステムを早期に実装し運用開始することも重要な視点である。
 組立工程や塗装工程、加飾工程などを中心に,外観検査を自動化したいというニーズはまだまだ根強くあると思われる。MTシステムによる生産性の高い外観検査自動化システムを構築する上で,本論文は大いに参考になるものと確信する。

お問合せ

論文賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350