品質工学会 学生賞

2011年 学生賞

2011年3月14日
品質工学会 審査部会

授賞の背景

 これからの品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。品質工学会学生賞はこの活動を支援し,教育機関における品質工学の存在感を高めるための,優秀な学生の研究に対する賞である。
 応募研究の中から,審査部会にて厳正に審査を実施し,下記2件の研究を選定した。受賞した研究は,学生であることを抜きにして,品質工学の研究として研究テーマと方法,考察など一般会員の平均以上の研究の質である。
 学生賞は,現時点での評価だけでなく,将来の期待を込めて評価している。研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。

受賞研究

題 目 ワイヤ放電加工における加工技術向上に関する研究
受賞者 沼澤陽介(学生会員)(宮城教育大学大学院 教育研究科 教科教育専攻 生活系教育専修 2年)
指導教員 小野元久
研究の種類 卒業研究
(参考) 第18回品質工学研究発表大会(2010年)にて一部を発表
発表番号;No.41「ワイヤ放電加工における誤差因子の検討」 
共同研究者;小野元久*1,清水友治*2,亀田英一郎*3,菅原久美子*3*1宮城教育大学 正会員,*2岩手大学 正会員,*3岩手大学)

題 目 画像による省エネ発光体の評価方法の研究
受賞者 赤川龍之介(学生会員)(富山高等専門学校 射水キャンパス 専攻科 2年)
指導教員 塚田 章
研究の種類 卒業研究
(参考) 第18回品質工学研究発表大会(2010年)にて一部を発表
発表番号;No.90「省エネ発光体の評価方法の研究(第三報)」
共同研究者;塚田 章*1,山本桂一郎*1,市川伸彦*1,高田賢治*2,府和直子*2*1富山高等専門学校 正会員,*2(株)ハウステック 正会員)

研究の概要

 応募の際に受賞者より提出された概要を以下に記す。

「ワイヤ放電加工における加工技術向上に関する研究」 沼澤陽介
 
 現在金型産業などで広く認知・使用されているワイヤ放電加工は,非常に高精度な加工を実現している一方,他の加工技術と比較して加工速度が遅いという欠点がある。そこで本研究ではパラメータ設計・機能性評価を実施し,ワイヤ放電加工における加工技術の向上を目的として研究を行った。
 放電加工における重要な特性値として加工速度,表面粗さ,加工重量,放電電力などがあげられる。それらの特性値を計測することで,工具電極のワイヤ放電加工の誤差因子などについて検討し,最終的にワイヤ放電加工における安定した加工条件を得るためのパラメータ設計を行った。工具電極のワイヤの機能性評価では,加工時間,加工距離,加工量などと放電電力との関係を調べることで,2社のワイヤの機能性評価を実施した。また,ワイヤの機能性評価の結果から,放電電力の大きさを制御すると考えられるパラメータを大きくしても,計測される放電電力が比例して大きくならないという課題が残った。その課題に対して放電電力の積算方法に問題点がなかったか検討を行った。ワイヤ放電加工において,放電の間隔や一発ごとの大きさにばらつきがみられる。これらのばらつきの大きさを評価することでワイヤの機能性評価を再び行った。放電電力の積算方法の検討や放電電力の波形からみた加工の安定性の評価の結果から,これまで設定していた誤差因子が有効でない可能性が出た。そこでワイヤ放電加工における誤差因子を放電の安定性などの観点から改めて検討した。以上の結果を踏まえて,様々な特性値のもとワイヤ放電加工の機能を仮定しパラメータ設計を実施した。その中で再現性が得られた関係から最も加工性が安定する最適条件を決定した。
 本研究の結果,メーカーの推奨条件と比較してもより安定した加工ができる条件を決定することができた。また,メーカーの推奨条件と同程度の安定性で,20%程度加工速度を上げる条件を決定することもできた。

「画像による省エネ発光体の評価方法の研究」 赤川龍之介
 
 近年,環境への関心の高まりから,蓄光材料を用いた発光体が注目されている。蓄光材料は,材料自身が吸収した光エネルギーを蓄え,放出することのできる光機能材料である。この蓄光材料を樹脂やゴム材料に充填剤として混合し,成形体としたものが発光体である。蓄光材料はレアアースを含んでおり非常に高価であるため,極力少ない蓄光材料で高輝度,長時間に発光し,長期間の使用が可能な劣化に強い成型品が求められている。
 これまでに市川,山本らにより発光体の成形条件の選定が行われている。ここでの成型品の発光特性評価は輝度計を用いて行われている。しかし,測定範囲は直径約3mmと狭く,発光体の位置による発光特性のばらつき(輝度むら)の評価が困難であった。発光体面上複数点を輝度計で定点観測することで輝度むらの評価も試みられたが,この方法では実時間の評価ができないうえ,測定点変更時に手作業が多く非効率であった。また,商品化の際には発光体の大量生産・評価をする必要があるため定点観測は不向きである。そこで,本研究では発光体全面の一括測定を行うことを目標とし,カメラを用いた測定を試みた。
 DVカメラを用いた発光体測定が可能かどうか検証するため,輝度計を用いた測定結果との比較を行った。両者の結果において類似した減衰特性が得られたことから,DVカメラを用いた発光体測定の可能性が示唆された。しかし,一部発光体の順位関係が逆転しており,この原因は測定精度が関係していると考えた。われわれは,測定精度を左右するのはDVカメラの温度特性と発光体の初期条件であると考え,予備実験を行い,精度向上の条件を見出した。現在,この条件を踏まえ市川,山本らによる第2報から改善した制御因子をL18直交表に割りつけてパラメータ設計に取り組んでいる。 

お問合せ

学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 中山,金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350