品質工学会 学生賞
2017年 学生賞
授賞の背景
品質工学会は,教育機関における品質工学の取り組み活動を支援し,教育機関に品質工学の存在感を高めるために,品質工学の取り組みに積極的な学生に学生賞を授与している。学生(大学院前期博士課程,修士課程,大学学部,高等専門学校)の自薦,または指導教員の推薦により研究の中から選択される。
昨年9月より募集をし,審査部会にて厳正に審査した結果,下記の研究に学生賞を授与する。
受賞研究
題 目 | RT法を用いた外科メススキルのモデル化による力覚提示 |
受賞者 | 猪俣一樹(東京電機大学 大学院理工学研究科 電子・機械工学専攻 修士2年) |
指導教員 | 大西謙吾 |
研究の種類 | 修士論文 |
研究の概要
応募の際に受賞者より提出された研究概要を以下に記す。
外科手技実習プログラム全般の効率化にVRやロボット技術を用いる試みがある。習熟目標として熟練者の一データを用いることができるが,初心者が練習用の見本として適性かが判断できない。そこで本研究では,力覚センサを取り付けた外科メスとステージからなる練習システムを構築し,計測した練習データに対し,RT法を用いた評価と,習熟時データの単位空間から算出した見本データを用いる手法を提案する。
切離手技の計測のため,アーム部と外科メス用替刃を取り付けるツール部,切離対象をのせるステージ部からなる装置を製作した。ツール部に6軸力覚センサ,ステージ部に3軸力覚センサ,アームの関節にロータリエンコーダを配置し,外科メス-対象間,対象-ステージ間の切離手技中に生じる力覚信号を計測する。同装置で計測した練習者のデータをメンバーとして単位空間を定義し,単位空間の中心から見本データを算出する。この方法で算出する見本データの検証として,まず,一被験者が100試行の切離手技練習を行い,最後の3試行目の計測データで構成した単位空間の中心から見本データを算出した。そして,1, 11, 21,…,91の計10試行を比較対象データとして見本データとの差分を算出した。結果,9軸中特定の5つの力覚信号に着目すると,練習回数に応じ見本データとの差が減少することが確認された。特に71試行目以降で偏差が小さく,差は0に近似することが確認され,算出されたデータが見本として妥当であることが確認された。さらに,比較対象データの単位空間に対するパターン差距離を算出し,単位空間の境界を閾値の1.5倍としてこの範囲への内属と練習回数の関係を調査した。結果,71試行目以降が単位空間内もしくは境界外近傍に分布した。このことから,本手法によりRT法を用いて習熟の過程をパターン差距離で評価でき,単位空間の中心から有効な見本データを算出可能であると期待される。今後は,先行練習者のデータから算出した見本データを練習回数の浅い練習者に提示する練習システムの構築と有効性の検証を行う。
審査結果
賞の審査は,先行性,汎用性,再現性を考慮し将来の効果も予測しての評価が必要である。論文としての論理性やその展開,論旨の一貫性なども評価の対象である。さらにその研究の品質工学への貢献や社会影響なども考慮して審査をする。学生賞は,現時点での評価だけでなく,将来の期待を込めて評価している。研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する.以上のことを踏まえて審査した結果,医学領域の適用事例は会誌や大会発表でも発表されているが,医療機器や診断方法へのMTシステムの適用などが主であった。本研究は医療機械が高度化する中で,外科用の機械の訓練に関する研究にRT法を利用したもので,テーマの新規性が評価できる。RT法を利用した熟練を早期に達成する規準づくりをしている。その適用や単位空間などの設定には議論の余地があるが,熟練過程をRT法のパターン差を縮小するという客観的な指標が得られる可能性を示している点が評価できる。今後,訓練レベルの可視化によりバイオフィードバックなどを含めた練習システムの構築が期待できる。
お問合せ
学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 中山,金野(こんの)
授賞・褒賞