品質工学会 日本規格協会理事長賞
第3回 品質工学会 日本規格協会理事長賞(2018年)
授賞の背景
第3回品質工学会日本規格協会理事長賞の審査が行われた。この賞は,一般財団法人日本規格協会より贈呈される賞である。その趣旨は,品質工学に関連して広く日本の標準化に貢献すると思われる成果に対して与えるもので,品質工学の実践と普及を通じて,個別企業や研究組織などの組織体や社会へ継続して貢献した個人あるいは組織体に授与する。昨年11月1日から1月10日にかけて募集し,3月19日開催の品質工学日本規格協会理事長賞審査委員会の審議をへて,品質工学会理事会で下記の団体に第3回品質工学会日本規格協会理事長賞を授与することが決定された。
受賞組織・団体
受賞組織・団体 | アルプス電気株式会社 品質担当(代表:常務取締役 天岸義忠) |
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推薦者 | 佐々木市郎(アルプス電気株式会社 品質担当 信頼性評価室) |
授賞理由
授賞組織は,2001年より品質工学を本格的に導入し,製造あるいは製品開発の中で組織的に活用し,今日まで継続して品質工学を実践している。この普及・実践活動は品質工学会日本規格協会理事長賞を与えるにふさわしいと評価した。受賞理由を以下に示す。
1)明確な組織目的とそのための実践
授賞組織は2000年当時,技術担当に新しく就任した技術役員のリーダシップにより品質工学の導入が始まった。そのきっかけは,開発部門の在り方を明確にし,その開発活動に対する方向を設定するという課題認識を持ったところから始まった。
導入当時,高度成長期で培われた日本的技術経営に生きづまりを感じていた。そのために諸外国,特に新興国における開発・生産状況の視察を行い,そのダイナミックさに衝撃を受けた。
その視察結果から,開発のスピードと開発コストの圧倒的短縮を行う決定をした。それらを阻害している事項が開発・生産における品質問題と認識し,開発戦略として「一発完動」,試作レス,試験レス,検査レスという目標を設定した。その目標を達成するために,CAE,QFD,DM(デジタルマニュファクチャリング)プロジェクトを立ち上げ,製品開発・製造プロセスの改革活動を2001年より開始した。開発のスピード,開発コストの低減の阻害原因は,開発・製造過程でのロバスト設計の不足にあることをスタッフの一人から指摘され,品質工学の考え方と手法の効果を見抜き,戦略を達成するための中核技術として品質工学を中心とした活動に取り組みはじめた。導入から18年にわたって経営レベルにおいた継続的した活動の成果は,学会誌にも報告され,品質工学の有用性を示した。
2)導入初期の従業員教育の徹底と継続
トップが戦略的方向を決めた後は,組織的な活動を円滑に行うために,2001年より10年ほどかけて人材教育を行つている。日本規格協会ならびに日刊工業新聞社が主催する通信教育を活用し,のべ千数百人に対して教育が実施されている。このように技術者に徹底的に教育させる点は,品質工学を理解させ,普及を徹底させる点で参考となる。
教育をオフラインで行うだけでなく,具体的プロジェクトを設定し,実践することに理解を深めさせ,その後,中核となる推進者を育成している。年を追うごとに,品質工学の基礎から品質工学の高度な領域まで教育を拡大させ,品質工学の中核技術であるパラメータ設計,許容差設計,オンライン品質工学,そしてMT 法の教育まで拡大し,継続した育成がなされている。 継続的な人材育成の体制が整つていることが評価される。
3)推進の組織体制の充実
導入初期には組織的体制づくりに模索があったようであるが,2005年になると全社推進会議が設置される。全社推進組織体制の整備は事業部内にも影響し,事業部内でも推進会議が設置される。代表的な事業であるスイッチ部門では,技術部長と製造部長の中核的マネージャがリード役となり,事業部レベルの推進会議で取り組みがなされ,設定した課題解決がプロジェクトとしてフォローされていく。DMプロジェクトを業務に直結した活動と位置づけ,ライン長が中心となった展開に特色があり,品質工学の適用ス夕イルとしても一つの模範となる。
品質工学の推進は,トップのリーダシップによる活動が重要であるが,それを支える推進スタッフの活動も重要である。現在では6ないし7名の品質工学の専門家が任命され,個別指導を行つていることから,普及は組織活動として組み入れられている。学会誌の報告を見ると,その活動は日常化している。一方,活動に飽和感を抱いていることも報告されているが,今後新しい品質工学の取り組みが期待される。
4)プロジェクト中心の取り組みと仕組み化
品質工学の適用は,開発プロジェクト活動として展開していることに特色がある。2008年の活動報告を見ると,導入初期段階では,開発・生産部門単位でそれぞれの部門の課題を中心にプロジェクトを設定している。この初期の段階では,流撲プロと呼んで不良流出防止に焦点を当てている。市場に流失している品質問題を解決すると同時に品質工学の効果を検証している。その後,初期の目標であった品質問題未然防止を達成するために,品質工学の適用をより上流段階に移している。そのために,活動の中心を製品開発のプロジェクト内でDMプロジェクトを立上げるようなグランドデザインを立案し,組織的展開をはじめる。この活動の変化は,品質問題の流出を防止し,生産段階で検査レスにするという活動から,より開発の上流で品質工学を適用し,試作レス,試験レスを達成することに焦点を当て,生産の垂直立ち上げに挑戦し実現している。品質を開発工程で作りこみ,ロバストな製品と工程にすることにより,活動の成果を着実に得ている点が評価される。
現在, この活動は新製品開発プロセスの基準となり,授賞組織の研究開発プロセスとして定着させている点でも評価できる。すでに,このことを公に出来るほどにしていることも評価される。
5)トップの退任とリーダシップの継続
組織活動は,リーダとなるトップが退任した後の引き継ぎが重要である。過去にリーダ職が退任した後,引き継がれることなくその後の展開が縮小してしまった組織も多い。初期にリードしていた役員が退任した後,後任の役員にその活動を引き継ぎ,全社レベルにおける品質を統括している。応募書の中でもみられるように,2017年にQE活動による品質改善・垂直立ち上げ活動が社内で表彰されていることから,リーダシップの継続がみられる。
6)実践事例,成果の展開
品質工学の研究は, 事例を中心に行うことを基本としている。社内での成功事例,失敗事例の共有化が普及のためには必要と考える。実践成果の共有化として年1度の発表大会も継続して行われている。近年はIT技術の進化にともない,社内共有化のシステムが整備されている。過去の事例を集め社員全体に公開していることも評価される。およそ400件の事例が登録されていることからも社内での展開が着実に行われている。
7)品質工学会,社会への貢献
社外への普及に関しても貢献している。学会活動での研究発表や学会誌への投稿も活発であり,企業として上位にランク付けされ,品質工学の発展に寄与してる。特に生産段階へのMT法の展開では,従来のスぺック中心の品質管理から複数の品質特性を用いた品質管理を実証したことでも高く評価される。
さらに,東北品質工学研究会の継続した活動にメンバーを派遣し,地方で品質工学の普及の中核企業となっていることも評価される。
お問合せ
品質工学会日本規格協会理事長賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします。
品質工学会事務局 中山,金野(こんの)
授賞・褒賞